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PCエンジンエミュレータ「Ootake」を製作しています中村です。
今回Ootakeを手前味噌で褒める記事になりますが、
「自分の実装が凄いだろう」という安っぽい動機ではありません(褒められれば嬉しいですが)
今現在、PCエンジンの作品たちを遊んでもらう場合に、実機で遊べないのであれば、
Ootakeで遊んでもらうのが一番作品の質を落とさずに遊んでもらえるだろうと自負しています。 再現度の低い環境で遊ぶことで、作品の良さが削がれてしまうことを常に危惧してきました。
Ootakeの秘密をこうして記事にしていくことで、エミュレータ界全体のレベルが
少しでも上がってくれれば嬉しいと思い、今後数回にわたって書いていく予定です。 今回は、画面の色合いのお話です。
Ootakeの開発では、実機をブラウン管テレビや近年の液晶モニタに実際に繋ぎ、
それを穴が開くほど観察した上で、PCエンジン実機を制作した方の意図を読み取った上で
グラフィックの色合いを実装してきました。
デフォルトで実機のビデオ出力・RF出力での色の見え方を基準にして作られているのは、 恐らくOotakeだけです。
商用の復刻ハード・ソフトを含め、他の多くのPCEエミュレータは、 「RGB出力に改造されたPCエンジン本体での表示」を前提として作られているため、
実機のビデオ出力とはだいぶ色合いが異なります。
じゃあ、どちらが本来の色合いなのでしょうか?
本体改造RGBや、拡張バスRGBの色合いは、補正前の信号なので注意
PCエンジン実機は、内部チップからRGB信号を直接取り出してRGB端子を付ける改造を行えば、RGB入力を持つディスプレイに接続できます。
しかし、この改造の場合、PCエンジン本来の色とは「だいぶ異なる色合い」で表示されてしまいます。
↓Ootakeデフォルト表示。慣れ親しんだ実機ビデオ出力に近い雰囲気。
※当時のテレビは個体差も大きく、この色合いの他にもう少し淡い色のテレビも多かった

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい Ootake設定:
Default 出典:『ファンタジーゾーン』(© SEGA © NEC
AVENUE)
↓Ootakeで「改造RGB出力機に近い設定」にした表示。赤色が強く原色的な色合い。 コントラストが高すぎるため、全体がケバケバしい印象の色合いになってしまう。
PCE版ファンタジーゾーンでは、この差が致命的となる。

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい Ootake設定:
Gamma 0.94 , Brightness +30 , Non-Scanlined 出典:『ファンタジーゾーン』(© SEGA © NEC
AVENUE)
↓Ootakeデフォルト表示。慣れ親しんだ実機ビデオ出力に近い雰囲気。
YsIIオープニングのリリア。影の部分の「暗部の肌色」も肌色に留まっている。

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい Ootake設定: Default
出典:『イースI・II 』(© Falcom © Konami
Digital Entertainment)
↓Ootakeで「他の多くのエミュレータに近い設定」にした表示。赤の発色が強い。
実機と違い、影の部分が暗く沈むため、肌色や髪色がくすんで見えてしまう。

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい
Ootake設定: Gamma 0.94 , Brightness +30 , Non-Scanlined
出典:『イースI・II 』(© Falcom © Konami
Digital Entertainment)
RGB出力は映りがシャープで綺麗に見えるため、色の違いに気づかれないまま「これが正しい」と思われてきた経緯があります。
背面の拡張バスからRGB信号を取り出すタイプの改造も同様で、適切な調整が行われない場合、実機本来の色とは異なる色合いになってしまいます。
PCエンジン実機では、本来つぎのような流れで画面が表示されます。
内部RGB信号 → テレビ向けのビデオ信号に変換(※色合いが変わる)
→ ビデオ出力/RF出力
ところが改造RGB機では、
内部RGB信号 → そのままの色合いでRGB出力
となり、色合いが調整される前の”生のRGB信号”の発色のままで出力されてしまうため、実機本来の色合いにはならないのです。
ドイツの方が作られた史上初のPCエンジンエミュレータ「VPCE」は、改造RGB機の発色を基準に実装されていました。
その後に登場したエミュレータや商用復刻ハードも、Ootake公開から約16年経つまでは、恐らくすべてが改造RGB機基準の発色で実装されていました。
実機の色合いに寄せたOotakeを公開してから約16年後、FPGA機であるMiSTerで、実機との色の違いに気がつかれた方々が、実機寄りの色に近づく設定を実装されました。
次の章では、なぜ長年にわたり”日本の実機とは違う色”で多くのエミュレータが実装され続けてきたのか。その原因に迫ります。
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”日本の実機とは違う色”で実装され続けている原因
史上初のPCエンジンエミュレータ「VPCE」や、その数カ月後に公開された「Magic
Engine」は、なぜ”日本の実機とは違う色”で実装されていたのか。
それは、ヨーロッパではNECが公式に発売した欧州用PCエンジンはほとんど出回らず、日本のPCエンジンを輸入してRGB出力端子付きに改造した本体が主流だったためです。
VPCEの作者さんはドイツの方。Magic
Engineの作者さんはフランスの方。どちらも、所有していた実機は、RGB出力改造された日本のPCエンジンだった可能性が極めて高いと考えられます。
なぜなら、NECが公式に発売した欧州用PCエンジンは
50Hz動作で、日本のゲームを起動するとスロー動作になってしまうためです。
これらのエミュレータは
50Hzではなく、日本のPCエンジンと同じ 60Hzでエミュレートされていました。
特にフランスでは、家庭用テレビに RGB端子(SCART)が標準で搭載されていたため、RGB出力に改造された日本のPCエンジンが、各所のゲームショップで普通に販売されていたようです。
ドイツのVPCE作者さんは、こうしたフランスの環境を利用し、テレビごと輸入していた可能性も推測できます。
この「RGB出力に改造されたPCエンジン本体」がヨーロッパでは主流だったため、日本の実機(ビデオ・RF出力)とは異なる発色のエミュレータが生まれることになったのです。
それが商用も含め日本のエミュレータでも長年続いてしまっている理由として、
・各PCEエミュレータ開発者の所有実機本体がRGB改造されたものである可能性
・そもそも実機とエミュレータの色の違いを見比べていない ・多くのエミュレータも同じ色味のため、確認せずにこれで良いとされてきた
・色味は違っても遊べてしまう。色が暗いゲームでもプレイに致命的な支障までは生じない
といった要因が考えられます。
その結果、デザイナーさんが意図した色とはだいぶ異なる発色で遊ばれてしまい、本来のデザインの魅力が十分には伝わらないという、残念な状況を生んでしまっています。
この「色の再現度の低さ」によって不当な評価を受けているPCEゲームは、実際にいくつかあるのです。次の章では、その誤解を解くために詳しく解説していきます。
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実機は素敵な色合いのファンタジーゾーン、それほど暗くないグラディウス
始めの章に掲載した画像のように、PCE版ファンタジーゾーンは、Ootake以外のエミュレータのデフォルト設定で遊んでしまうと、アーケード版とはだいぶ離れた、少し毒々しい色合いになってしまうため、PCE版は「色が悪い」というレビューを度々見かけます。
特に西暦2000年を過ぎた頃に書かれた、とあるレビュー記事の影響は大きく、2ちゃんねる掲示板でもアンチPCエンジンの人々がその記事へのリンクを貼り、PCE版ファンタジーゾーンを繰り返し貶していた時期がありました。
そのレビュー記事は、実機の色合いを再現していないエミュレータ画像を貼って「色がおかしい」と断じ、さらに実機から大きく劣化した再現のサウンドを聴いて「音が最悪」と誤解するなど、散々な内容になっていたのです。
当時のレビュー記事やユーザーレビューを見直してみましたが、色がおかしいという指摘はひとつもなく、説明書や雑誌に載っている画面写真はどれも綺麗なファンタジーゾーンでした。
サウンドについても、確かに「1面のホイッスルが鳴らないのは残念だ」という声は度々耳にしましたが、他の面のBGMには聴きどころも多く、当時貶すほど文句を言っている人やレビューは特に見当たりませんでした。
ネットの情報でよく確認もせずに面白がって一緒に貶してしまう層によって、誤った評価が植え付けられてしまうことがあるのは、非常に残念に思います。
一方で、こちらは2020年のPCエンジンminiのレビューです。
【PCエンジン mini全タイトルレビュー!】「ファンタジーゾーン」
(GAME Watch さん)
>「色使いが若干違うが、画面構成はアーケード版とほぼ同じだ」
>「画像では伝わらないが、BGMはちょっと残念な完成度だ」
とPCエンジンminiでプレイしたファンタジーゾーンをレビューされつつ、
「少なくとも当時の筆者には自宅のテレビに映ったその画面は、アーケード版とほとんど変わりないように見えた」
と、当時のPCE版ファンタジーゾーンについても語られています。PCエンジンminiと当時の色合いが違っているだけで、この方の当時の印象は間違っていないのです。
サウンドについても、PCエンジンminiは残念ながら再現の悪い部分(ノイズ系ドラムが耳に付きすぎるなど)があり、ファンタジーゾーンではそれが特に目立ってしまっていて、当時のPCE版ファンタジーゾーンの素朴なサウンドを伝えきれていません。
そのあたりの誤解を解くためにも、機会があればXなどでOotakeか実機のサウンドを投稿できればと思っています。
また、実機やOotake以外で遊ぶと画面に違和感を感じるタイトルとしては、「グラディウス」や「ダンジョンエクスプローラー」なども挙げられます。
これらのゲームは、一般的なエミュレータでは画面が極端に暗く、色がくすんで見えてしまうのです。
↓Ootakeデフォルト表示。慣れ親しんだ実機ビデオ出力に近い雰囲気。
他のゲームと比べると確かに暗めだが、暗すぎることは無くいい雰囲気が出ている。

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい Ootake設定:
Default 出典:『グラディウス』(© Konami
Digital Entertainment)
↓Ootakeで「他の多くのエミュレータに近い設定」にした表示。画面の雰囲気が暗い。
自機の灰色や、地上の敵やアイテムが、くすんで見えてしまっている。

※PCブラウザでは色味が変わる場合があります。本来の色で見る場合、画像を保存しペイントで見て下さい Ootake設定: Gamma 0.94 , Brightness +30 , Non-Scanlined
出典:『グラディウス』(© Konami Digital Entertainment)
それから『イース』『天外魔境』『ヴァリス』『コズミックファンタジー』シリーズなど多くのゲームにおいても、肌色や空のグラデーションの濃淡の滑らかさを比較すると、発色の違いは無視できないほどの差が見られます。
次の章では、実際にOotakeでは、どのようにして 『日本のPCエンジンの色(=デザイナーさんの意図する色)』 を再現しているのかについて解説していきます。
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どのようにして 『日本のPCエンジンの色(=デザイナーの意図)』 を再現するか
では、どのようにして実機の色合いに近づけたら良いのでしょうか。
5年ほど前、海外の方が「RGB信号をビデオ・RF出力用の信号に変換する際に使われる補正値」を、PCエンジン実機のチップから読み出してデータ化することに成功されました。
生のRGBデータでエミュレータ画面を表示するよりも、この補正値を用いて表示したほうが、確かに日本のPCエンジン実機やOotakeの色合いに近づきます。
ただし、この補正値を使っても「最終的な色」とは少し異なります。
なぜなら、実機ではこの補正値から更にアナログ信号への変換が行われ、加えてテレビ側の明るさ補正回路も通り、そのうえで画面に表示されるからです。
一方、拙作のOotakeでは、20年前の初期バージョンから「最終的な色」にターゲットを絞って調整しています。
具体的には、次の点を前提としています。
・当てずっぽうで色を置かず、色のバランスは必ず守る
・「ファンタジーゾーン」「グラディウス」「ダンジョンエクスプローラー」など、色合い調整にシビアなゲームで破綻しないように収める
・とにかく実機画面とにらめっこして、似た雰囲気に近づける
・当時のテレビは、ビデオ映画などの暗いシーンが真っ暗になってしまわないようにするため、今(デジタルテレビ時代)よりもコントラストが低く、比較すると暗部が明るめに調整されている表示だった
・当時のテレビは、初期調整もまちまちで色合いの個体差が大きいため、「これが正解」という色をひとつに絞れないことは最初から肝に銘じておく
そのうえで、実際の実装を次のような方針で行いました。
・色の基本的なバランスはsRGBに準拠
・そこから暗部が沈みすぎないようにガンマ値で調整し、実機に近く見やすいところをゴール
・ひとつの実機&テレビだけで決めず、複数の実機環境を観察して確かめる。※各レトロゲーム店の試遊台のテレビもよく観察に行きました
こうした試行錯誤を積み重ねながら、実装してきました。
多くの方が利用するデフォルト設定は、作品をデザインした方の意図がプレイヤーにしっかりと伝わるよう、慎重に決定しています。
当時のテレビは個体差も大きかったため、Ootakeでも、色のバランスを崩さない範囲での調整は「Gamma」「Brightness」メニューで各自調整可能です。 |
名作の魅力を後世へ伝えるために
PCE版ファンタジーゾーンの散々な誤解レビュー記事を書いてしまった方も、エミュレータの色や音の再現度が高ければ、そうはならなかったでしょう。
PCEエミュレータが登場した当初は、PCの画面上に懐かしいゲームたちが映るだけで興奮し、感動させてもらいました。
しかし普及していくうちに、その再現度が低いと当時のゲームが不当な評価を受けてしまうリスクがあることに気がついたんです。
自分がOotakeを公開しようと思った一番の動機はそこにあります。
しっかり作品の良さを伝えられるエミュレータとして公開したいと。
個人的に気をつけていることとしては、デジタルでの計測は測り方を誤ると、誤実装につながってしまうという点です。
ですので、アナログで現実を確かめながら実装を進め、デジタルは裏付けとして利用する方法がベストだと考えています。
エミュレータの画面が実機の画面と同じになることが最終の目的なのですから、実機とエミュレータの画面を横に並べてにらめっこすることこそ、最も信頼できる確認方法と言えます。
そこで違いがあればデータを見直す。そしてまたアナログで確認する。
この繰り返し無くして、再現性の高いエミュレータは出来ません。
簡単ではありませんが、名作たちが本来の姿で遊ばれ続けることを願いながら、今後も改良を重ねていきます。 |
2026.2.6 Written by Kitao Nakamura.
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